外国人経営者の5%が廃業検討――経営・管理ビザ厳格化で何が問われるのか

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外国人経営者の5%が廃業検討――経営・管理ビザ厳格化で何が問われるのか

在留資格「経営・管理」の基準改正により、外国人経営者は資本金、常勤職員、日本語能力、事業実態、納税・社会保険の履行状況をより具体的に説明する必要があります。更新申請の経過措置期間も含め、実務上の対応策を整理します。

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在留資格「経営・管理」の厳格化による影響が、外国人経営企業の実務にも表れ始めています。

東京商工リサーチの調査によると、外国人経営企業299社のうち、45.2%が何らかの影響を受けると回答し、5.3%、16社が廃業を検討しているとされています。また、対応策として、増員などで要件を満たす、事業売却・合併を検討する、経営権を日本人や永住資格のある人物へ移譲する、といった回答も示されています。

この記事のポイント
  • 経営・管理ビザの基準は、2025年10月16日から大幅に厳格化されています。
  • 新基準では、資本金・出資総額3,000万円、常勤職員1名以上、日本語能力、事業計画の確認などが重要になります。
  • 既存の経営・管理ビザ保有者には、更新申請について2028年10月16日まで経過措置があります。
  • ただし、経過措置は「何もしなくてもよい期間」ではなく、新基準に近づける準備期間と考えるべきです。

1.制度改正で何が変わったのか

入管庁は、在留資格「経営・管理」に係る上陸基準省令等を改正し、2025年10月16日から施行しています。改正後は、従来よりも実体のある経営体制が求められます。

主な確認項目は、資本金又は出資総額、常勤職員の雇用、日本語能力、事業計画の実現可能性、経営者としての経歴・学歴、事業所の実態、公租公課の履行状況などです。

確認項目 実務上の意味
資本金・出資総額 法人の場合、3,000万円以上の資本金又は出資総額を説明できるかが重要になります。形式的な一時入金ではなく、資金の出所や事業への投下実態も整理が必要です。
常勤職員 1人以上の常勤職員を雇用する体制が求められます。誰を雇えばよいか、在留資格、雇用契約、給与支払、社会保険加入状況を確認する必要があります。
日本語能力 申請人本人又は常勤職員のいずれかで、日本語能力を立証できるかが問題になります。JLPT、BJT、日本での学歴等の資料が重要です。
事業計画 売上、利益、資金繰り、取引先、許認可、人件費、今後の改善策を具体的に説明する必要があります。
事業実態・公租公課 事業所、取引実績、納税、社会保険、労働保険、必要許認可など、会社が実際に適正運営されているかが確認されます。
経営・管理ビザの要件と事業計画を確認するビジネス相談の様子
経営・管理ビザの更新では、会社資料、事業計画、雇用体制、納税・社会保険の状況を総合的に確認する必要があります。

2.「廃業5%」より重要なのは、約半数が対応を迫られていること

今回の調査で注目すべきなのは、「廃業を検討する企業が5.3%」という数字だけではありません。

東京商工リサーチの調査では、回答企業のうち27.4%が「増員など要件を満たすよう対応する」、11.7%が「企業や事業の売却、他社との合併を検討する」、6.3%が「経営権を日本人や永住資格のある人物へ移譲する」と回答しています。

つまり、制度改正の影響は、単に一部の会社が廃業するかどうかという話ではなく、多くの外国人経営者が、増資、雇用、事業再編、経営権移譲、事業継続の可否といった重大な経営判断を迫られているということです。

3.なぜ厳格化されたのか

制度改正の背景には、実態の乏しい会社、いわゆるペーパーカンパニーを利用した在留を防ぐ目的があると考えられます。

経営・管理ビザは、単に会社を設立した人に与えられる在留資格ではありません。日本において実際に事業の経営又は管理活動を行うための在留資格です。そのため、事業所、資金、雇用、取引、納税、社会保険、必要許認可などの実態確認が強化されること自体には一定の合理性があります。

一方で、実際に地域で営業し、雇用し、納税してきた小規模な外国人経営者にとっても、新基準への対応は簡単ではありません。特に資本金3,000万円のハードルは、日本の一般的な中小企業感覚から見ても高い基準です。

4.既存の経営・管理ビザ保有者には経過措置がある

既に在留資格「経営・管理」で在留している方については、改正後すぐに全員が新基準を完全に満たさなければならない、という扱いではありません。

入管庁の説明では、施行日である2025年10月16日から3年を経過する日、つまり2028年10月16日までの間に在留期間更新許可申請を行う場合、改正後の基準に適合していない場合であっても、経営状況や改正後の基準に適合する見込み等を踏まえて許否判断を行うとされています。

重要:
経過措置は、「3年間は何もしなくても更新できる」という意味ではありません。審査では、現在の経営状況、新基準へ近づけるための具体的な計画、増資・雇用・日本語能力・事業計画の整備状況などが確認される可能性があります。

また、入管庁は、審査において経営に関する専門家の評価を受けた文書の提出を求めることがあるとしています。さらに、施行日から3年を経過した後の更新申請では、原則として改正後の基準に適合する必要があります。

5.経過措置期間中に準備すべきこと

経過措置期間中に更新申請を行う場合でも、何も準備しないまま申請するのは危険です。現時点で新基準を満たしていない場合ほど、「いつ、どのように、どの要件を満たす予定なのか」を具体的に説明する必要があります。

  • 現在の資本金・出資総額と、増資予定がある場合の時期、金額、資金源
  • 常勤職員を雇用する予定がある場合の採用計画、職務内容、給与水準
  • 日本語能力を申請人本人で満たすのか、常勤職員で満たすのかという整理
  • 売上、利益、資金繰りの改善計画
  • 事業計画書の見直し
  • 許認可、事業所、取引先、契約関係の整備状況
  • 税金、社会保険、労働保険の履行状況
  • 次回更新までに新基準へ適合する見込み

6.実務上取りうる具体的な対応策

1.資本金・出資総額を確認する

まず確認すべきなのは、法人の場合、登記事項証明書や決算書上の資本金・出資総額が新基準に対応できるかです。

不足がある場合には、増資、新たな出資者の受入れ、役員・株主構成の見直しなどを検討することになります。ただし、形式的に一時的な資金を入れるだけの対応や、資金の出所を説明できない増資は、実務上リスクがあります。

増資を行う場合は、資金の出所、送金記録、出資者との関係、株主構成、登記、税務処理まで一体で整理する必要があります。

2.常勤職員を確保できるか確認する

常勤職員を雇う場合は、単に人数を増やせばよいわけではありません。雇用契約、勤務時間、給与支払、社会保険加入、住民票、在留資格の種類などを、入管に説明できる形で整備する必要があります。

特に、外国人従業員を常勤職員として考える場合は、その在留資格が常勤職員要件の対象となるかを確認する必要があります。技術・人文知識・国際業務、特定技能、留学、家族滞在などの外国人だけでは、この要件を満たせない可能性があります。

3.日本語能力要件を誰で満たすか決める

日本語能力については、申請人本人又は常勤職員のいずれかで立証できるかを整理します。

本人がJLPT、BJT、日本での学歴などで証明できる場合は、その資料を準備します。本人での立証が難しい場合は、日本語能力を持つ常勤職員を雇用し、その職員の日本語能力資料、住民票、雇用契約、給与支払資料などを整えることが考えられます。

4.事業計画書を作り直す

既に事業を行っている会社でも、更新申請では、今後の事業継続性を説明できる事業計画書が重要になります。

売上、仕入、取引先、顧客層、利益見込み、資金繰り、人件費、許認可、事業所、今後の改善策を具体的に書く必要があります。赤字決算、売上減少、借入増加、長期休業、店舗移転、代表者の長期出国がある場合は、理由と改善見込みを資料で説明することが重要です。

5.税金・社会保険・労働保険を整備する

法人税、消費税、源泉所得税、住民税、社会保険、労働保険などに未納や未加入がある場合、更新審査で不利に評価される可能性があります。

未納がある場合は、放置せず、納付、分納、納付計画、社会保険加入手続、労働保険関係の整備を進める必要があります。税理士、社会保険労務士、行政書士が連携して確認すべき部分です。

6.事業所と許認可を確認する

事業所については、実際に事業を行う場所として独立性・継続性があるかを確認します。自宅兼事務所、バーチャルオフィス、短期契約、実態の乏しい事務所の場合は、審査上問題になる可能性があります。

また、飲食店、古物商、不動産業、建設業、人材紹介、旅行業など、事業に許認可が必要な場合は、許可証、届出書、更新状況、名義、営業所所在地が現在の事業内容と一致しているかを確認します。

経営・管理ビザ申請に向けて書類を確認し署名する様子
更新期限の直前ではなく、決算期、採用時期、増資手続、許認可、納税・社会保険の整備時期を逆算して準備することが重要です。

7.代表者本人の経営実態を整理する

経営・管理ビザでは、会社だけでなく、申請人本人が実際に日本で経営又は管理活動を行っているかも重要です。

代表者が長期間日本を離れている、実際の経営を他人に任せている、給与や役員報酬の実態が不明確である、といった事情がある場合は、活動実態を疑われる可能性があります。

代表者の役割、日々の業務内容、取引先とのやり取り、契約締結、資金管理、従業員管理、店舗運営、営業活動などを具体的に説明できる資料を準備しましょう。

8.要件を満たせない場合の経営判断も検討する

どうしても資本金、常勤職員、日本語能力、事業継続性の要件を満たす見込みが立たない場合は、別の経営判断も必要になります。

具体的には、事業売却、他社との合併、日本人又は永住者等への経営権移譲、共同経営化、事業規模の縮小、別の在留資格への変更可能性の検討、又は計画的な廃業などです。

7.典型的な誤解

誤解 実務上の注意点
3年間は何もしなくてもよい 経過措置期間中でも、経営状況や新基準への適合見込みが確認されます。準備しないままの更新は危険です。
資本金を入れれば必ず大丈夫 資金の出所、事業への投下実態、事業計画、雇用、納税・社会保険も総合的に確認されます。
外国人従業員を1人雇えばよい 常勤職員要件の対象となる在留資格か、勤務実態、給与、社会保険加入状況を確認する必要があります。
赤字でも理由書だけで足りる 赤字の理由、改善策、資金繰り、取引先、今後の売上見込みを資料で説明する必要があります。

8.まとめ

在留資格「経営・管理」の厳格化は、不正な在留や実態不明の会社を減らす一方で、実際に事業を続けてきた小規模な外国人経営者にも大きな影響を与えています。

今後は、会社を設立しただけ、登記があるだけ、形式的な事業計画があるだけでは足りません。事業の実態、資金力、雇用、日本語能力、納税・社会保険、今後の継続可能性を総合的に説明できるかが重要になります。

経営・管理ビザで在留中の方、またはこれから日本で起業を考えている方は、次回申請の直前ではなく、早めに現在の状況を確認し、必要な準備を進めることをおすすめします。

経営・管理ビザの更新・変更で不安がある方へ

トミーズリーガルサービス行政書士事務所では、経営・管理ビザの更新、変更、事業計画書、追加資料対応、外国人経営者の在留資格相談を行っています。会社の状況、決算、雇用、税金・社会保険、事業所、許認可を確認したうえで、現実的な対応方針を整理します。

参考資料
・東京商工リサーチ「『在留資格の厳格化』企業の5%が廃業検討 ビザの厳格化で、外国人企業の半数近くが影響」
https://www.tsr-net.co.jp/data/detail/1202771_1527.html
・出入国在留管理庁「在留資格『経営・管理』に係る上陸基準省令等の改正について」
https://www.moj.go.jp/isa/applications/resources/10_00237.html
・朝日新聞「外国人経営者、5%『廃業検討』 在留資格『経営・管理』の厳格化で」